1 どのような場合に遺言を作成しておくべき?

相続に関するご相談をいただく際、「私は遺言を作っておいた方がいいケースでしょうか。」とのご質問をいただくことがよくあります。

今回のコラムでは、遺言を作成することによるメリットや法的効果も踏まえつつ、遺言を作成しなくてもいい場合、逆に遺言を作成しておいた方がいい場合につき、わかりやすく解説させていただきたいと思います。

2 遺言とは?

遺言は、色々な定義がありますが一般的には「人が自己の死亡後の法律関係を定めるために行う要式の単独行為」とされています。

ここでいう「要式行為」とは、「一定の方式に従って行われないと効力が生じない法律行為」を意味します。遺言では、例えば自筆証書遺言における全文、日付、氏名の自書や押印など、遺言として有効に成立するためには一定の要式を備えなくてはなりません

遺言にこのような要式性が求められる理由は、遺言が、遺言者がお亡くなりになったあとに法的な効力を生じさせるものであり、遺言に一定の形式を必要とすることによって遺言者の真意を明確にするためと言えます。また、遺言者以外の者による偽造や変造を防止するためという目的もあります。

【民法960条(遺言の方式)】
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることができない。

【民法968条(自筆証書遺言)】
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。


次に「単独行為」とは、「1個(1人)の意思表示のみによって成立する法律行為」を意味します。

例えば、売買などの契約では契約当事者の双方による合意があってはじめて法的な効果(代金を支払う義務や商品を引き渡す義務などの発生)が生じますが、単独行為である遺言は、受け取る側である相続人や受遺者の合意を必要とせずに、遺言作成という遺言者の単独の行為だけで法的な効果を生じさせることができます

3 遺言のメリットは?

生前に遺言を作成するメリットは色々とありますが、大きなメリットとしては、①相続発生後における相続人間のトラブルを予防する、②相続発生後における相続人の負担を減らすことができる、③相続人以外の人に財産を渡すことができる、ことが挙げられます(なお、①と②のメリットは重複する部分があります)。

①相続発生後における相続人間のトラブルを予防することができる

もし遺言が作成されていない場合、法定相続人が2人以上いる場合は、原則としてその全員で遺産分割協議を行って全員で合意しない限り、遺産を分割して受け取ることができません

相続人全員において関係が良好なケースや、分けやすい遺産だけ(預貯金のみの場合など)のケースでは、遺産分割協議もスムーズに進む可能性が高いと言えるでしょう。

逆に、相続人間の関係が良好でないケースや、分けにくい遺産(不動産や自社株など)があるケースでは、遺産分割協議の際、相続人間でトラブルが発生する可能性があると言えます。

この点、もし生前に遺言を作成しておけば、原則として遺産は遺言の内容通りに分割され、遺産分割協議が必要ではなくなりますので、トラブルとなる可能性がある遺産分割協議を回避して相続手続きをスムーズに進めさせることが可能になります。

②相続発生後における相続人の負担を減らすことができる

遺言が作成されてない場合、原則として全相続人において遺産分割協議をする必要がありますが、分割協議の際に相続人調査(誰が法定相続人であるかの調査)や相続財産調査(どのような資産や負債があるかの調査)をしっかりと行わないと、最悪、一度決まった遺産分割協議があとで無効となり、再度やり直さなくてはいけない可能性も出てきます。

この点、生前に遺言が作成されていた場合、通常は、それまで資産や負債を管理してきたご本人が関与する形で、相続人の確認や相続財産の確認をし、その上で遺言を作成してその中に資産の状況を「財産目録」として記載することになります。

相続発生後、相続人などの関係者がその遺言を確認することにより、情報の確度が高い財産目録から相続財産の情報を得ることができることになります。

また、例えば不動産の相続登記の際、遺言があれば、ない場合に比べて集めるべき全部事項証明(戸籍謄本等)が少なく済むこともあります。

③相続人以外の人に財産を渡すことができる

遺言を作成していない場合、相続財産の相続権は法律で定められた法定相続人に限られることになります。

これに対して遺言を作成すれば、相続人以外の第三者に対して財産を譲り渡す(遺贈といいます)ことが可能になります。

4 遺言作成があまり必要ではないケース

以上が遺言を作成することによる大きなメリットの解説になりますが、まずは遺言作成があまり必要ではないケースを見てみましょう。

  1. 親1人と子1人における親の遺言
  2. 親2人と子1人における親(どちらか)の遺言

これらの場合は、類型的に遺産分割でもめてしまう可能性は低いと言え、相続人以外の第三者に財産の一部を遺贈することを希望する場合などの特別な事情がある場合を除き、遺言を作成する必要性は低いケースと言えるでしょう。

5 遺言を作成しておいたほうがいいケース

次に、遺言を作成しておいた方がいいケースを見ていきましょう。

⑴ お子さんがいないご夫婦

遺言を作成しておくべき典型的なケースになります。

お子さんがいない、また、ご両親様などの上の代(直系尊属)もすでに他界されている場合、被相続人の兄弟姉妹やそれらの子が法定相続人に含まれてくることになりますが、普段から関係性が疎遠であったり、面識自体がなかったり、連絡先が不明であったりすると、円滑かつ迅速な分割協議を進めることはなかなか難しいでしょう。

このような場合、例えば、ご夫婦とも配偶者に対して「すべて相続する」旨の遺言を作成しておけば、ご自身の相続発生後、配偶者に全ての財産を残すことが可能になります。

また、被相続人の兄弟姉妹やそれらの子には遺留分は認められておりませんので、そのような遺言を遺したとしても遺留分侵害請求を受けるリスクも生じません。

⑵ 内縁関係のご夫婦

内縁又は事実婚のご夫婦も遺言を作成しておくべき典型的なケースと言えます。

内縁や事実婚の妻(または夫)は、法律婚の配偶者のように法定相続人には含まれておらず、遺言を作成しない場合、実際には同居していない配偶者や実子など、他の法定相続人に全ての財産が分割されることになってしまい、内縁の妻(または夫)は、被相続人と同居して苦楽をともにしていたり、被相続人の介護をしていたにもかかわらず、遺産は何も取得できないという帰結になってしまいます。

もっとも、法定相続人には遺留分が保障されておりますので、遺留分による一定の制約はあるものの、内縁や事実婚の妻(または夫)に対する遺贈を含む遺言を作成することにより、一定の遺産を残すことが可能になります。

⑶ 遺産が不動産のみの場合や複数の不動産がある場合

遺産がご自宅などの不動産のみの場合や、賃貸物件などの複数の不動産を含む場合も遺言を作成しておくべきケースと言えます。

もし遺産が現金や預貯金のみの場合、遺言がなくても法定相続分に応じて相続人が分けることはさほど難しくないと言えますが、不動産については現金や預貯金のように簡単に分割できる性質のものではないからです。

例えば、ご自宅の場合、売却してそれを相続人間で分割することがさほど問題になることはありません(この分割方法を「換価分割」といいます)。

しかし、相続人の誰かが自宅に住むことを希望しているなどで売却することができない場合、他の相続人に対して代わりに一定の金銭を支払って単独所有にする方法(この分割方法を「代償分割」といいます)が考えられますが、「その自宅をいくらと評価するか」という問題が発生することになり、この点に関して相続人間でもめてしまうことがよくあります。

この点、遺言を作成し、例えば、どの不動産を誰が取得するかを指定したり、売却の上で分配することを指定しておけば、このような相続人間でのトラブルを予防することが可能になります。

⑷ 事業経営をしている場合

ご自身で事業などを経営している場合、法人化の有無にかかわらず、遺言を作成しておいた方がいいケースになります。

株式会社などの法人成りをしている場合はその株式などの持ち分を相続財産となり、個人事業主であっても、不動産や商品の在庫や機械類などの動産類も含め相続財産となります。

もし遺言を作成しないで相続が発生した場合、法定相続人間で法定相続分を基準として遺産分割協議をすることになりますが、先程の不動産と同様、どのように株式(多くの場合は市場価格がない非上場株式になります)などを評価するかという点で争われる可能性もあれば、株式などの持ち分を複数の法定相続人がそれぞれ取得することになりますと、最悪会社の存亡にもつながりかねません。

そのようなリスクを回避するためにも、遺言を作成することによって株式などの持分を1人の相続人に集中させるなどの方策を採ることが考えられます。また、生前における事業承継を行うという選択肢もあります。

⑸ 法定相続分とは異なる分割を希望する場合

お子さんや配偶者などの法定相続人に遺産を残すことを希望するが、法定相続分とは異なる割合で分割してもらいたいという場合は、遺言を作成しておく必要があります。

もっとも、遺留分まで侵害するような割合での分割にしてしまいますと、逆に相続人間で遺留分侵害請求という別のトラブルを発生させることにもなりますので、相続人間の人間関係や経済状況なども留意した上で遺言を作成するべきでしょう。

⑹ 相続人に、行方不明の方、認知症の方、海外在住の方などが含まれる場合

遺言が作成されていない場合、相続人全員で遺産分割協議をする必要がありますが、相続人に、行方不明者、認知症の方、海外在住の方などが含まれる場合には、円滑かつ迅速な遺産分割協議を進めることは難しい状況と言えます。

このような場合も遺言を作成し、さらに遺言執行者も指定しておくなどにより、なるべく相続手続きを円滑に進ませることができるような方策をとっておいたほうがいいでしょう。

⑺ 相続発生後、相続人間での反目が予想される場合

ご自身に婚外子がいる場合、半血の兄弟姉妹がいる場合、事実上離婚している状態にある別居中の配偶者のいる場合なども、相続人間で争いが起きやすい類型と言えるでしょう。

これらの場合も遺言を作成することにより、相続発生後における親族間の紛争がなるべく起きないよう対策をとっておく必要があると言えます。

⑻ 法定相続人が1人もいない場合

ご自身に法定相続人が1人もいない場合、遺言を作成しておかないと、遺産は相続人捜索の公告などの一定の手続きを経た上で国庫に帰属することになります(民法959条)。

この点、遺言の作成によって、慈善事業を行う団体や生前お世話になった方へ遺贈をしておけば、国庫に行ってしまうことなく、ご自身の意思にかなった寄付などを実現できるようになります。

6 さいごに

以上、類型的に遺言を作成した方がいいケースにつき解説させていただきました。
実際の事案では個別具体的な事情が存在するため、詳細な検討の結果、作成する必要がないケースも出てきますが、少なくとも遺言作成の必要性を検討する上での指針の1つにはなるかと思います。

先程のとおり、遺言は一定の要式を備える必要があるとともに、ある程度精度の高い相続人調査や相続財産調査をしておかないと、遺言が無効となり、結局相続人間で遺産分割協議を一からすることになってしまうこともあり得ます。

もし少しでも遺言についてお考えでしたら、一度、法律相談を受けていいただきますと、遺言を作成しておくべきかという点や作成に際して注意すべき点などが具体的になってくるかと思います。

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